醤油はどのように造られるのか
日本の醤油の原料は大豆、小麦、塩、水、そしてそれらを変化させる麹です。小麦を使う点が中国や韓国の多くの醤油との大きな違いで、香りとほのかな甘みを生みます。伝統的な蔵が紹介する工程:
- 大豆の処理:洗浄、浸漬の後、圧力をかけて蒸す。
- 小麦の処理:煎ってから2〜3つに割り砕く。
- 製麹:大豆と小麦を混ぜて種麹をつけ、温度と湿度を管理した麹室で3〜4日、数回手入れしながら麹菌を繁殖させる。
- 諸味(もろみ):麹を塩水と合わせて桶に仕込む。酵母や乳酸菌の働きで発酵し、天然醸造なら1年〜1年半、櫂入れを繰り返す。発酵の最盛期は6〜7月。
- 搾り:諸味を布に包んで搾る。搾ったばかりの液体が生揚げ(きあげ)で、まだ微生物が生きています。
- 火入れ:清澄させた生揚げを加熱して品質を安定させ、色と香りを整える。角長では今も松の薪を燃やし、和釜で半日かけて炊き上げます。
- 瓶詰め。
工業製品と蔵の醤油の違いは諸味にあります。工場ではステンレスタンクで温度を管理し数か月で仕上げますが、伝統的な蔵では季節の移ろいに合わせて熟成させ、多くは蔵ごとの微生物がすみつく杉の木桶を使います。木桶仕込みの醤油は現在、国内生産量の1%以下です。
こいくち、うすくち、たまり…醤油の5つの種類
日本農林規格(JAS)では醤油を5種類に分けています。料理での失敗を防ぎ、味比べの基礎にもなる知識です。
- こいくち:大豆と小麦をほぼ半々で使う標準的な醤油。国内消費の約8割を占め、かけ醤油、漬け込み、煮物、つけ醤油と万能です。
- うすくち:色は淡いものの、名前とは逆に塩分はこいくちより高め。関西、特に兵庫県たつの市が産地。色をつけずに味をつけたい吸い物や野菜料理、京料理に。
- たまり:ほぼ大豆のみで小麦はわずか。とろりと濃く、うま味が強い。愛知・岐阜・三重の東海地方で造られ、豆味噌とは近い関係。刺身、照り焼き、せんべいに。
- さいしこみ:麹を塩水ではなく醤油で仕込む「二度仕込み」。濃厚でとろみがあり、つけ・かけ用。山口県柳井が発祥で、小豆島の長期熟成醤油にもこのタイプが多くあります。
- しろ:主に小麦で大豆はごく少量、淡い琥珀色。愛知県碧南市の特産。茶碗蒸しなど色を生かす料理に。
ラベルで役立つ3つの言葉:
- 丸大豆:脱脂加工大豆(安価で工業的に多用)ではなく、丸ごとの大豆を使用。
- 天然醸造:加温による促進をしない自然な発酵。
- 生(なま):火入れをしていない醤油。香りが豊かで、要冷蔵。
蔵の醤油のこいくちは、ドライフルーツやコーヒー、カラメルを思わせる複雑な香り、角の取れた塩味、長い余韻が特徴です。工業製品と木桶仕込みを、何もかけない豆腐で食べ比べてみると違いがよくわかります。

醤油発祥の地・湯浅:歴史と町並み
湯浅町は大阪の南、和歌山県西岸の小さな町です。始まりは一人の僧でした。鎌倉時代、禅僧覚心(のちの法燈国師)が宋から径山寺味噌の製法を持ち帰ります。大豆と麦に刻んだ野菜を混ぜて仕込む味噌で、その桶の底にたまった汁がおいしいことに人々が気づきました。湯浅の良質な水にも恵まれ、改良を重ねた「たまり」が醤油になったといわれます。この地域で醤油全般を「たまり」と呼ぶのはそのためです。
最盛期には92軒もの醤油屋が軒を連ね、船で大坂や江戸へ運ばれました。現在残る蔵はわずかです。東西約400m、南北約280mの旧市街は2006年に重要伝統的建造物群保存地区に選定され、商家、醤油蔵、細い路地、樽を積み出した小さな運河が残っています。2017年には「『最初の一滴』醤油醸造の発祥の地 紀州湯浅」として日本遺産に認定されました。町内を熊野古道も通っています。
町並み散策は徒歩で1〜2時間。楽しみ方:
- 路地を歩き、醤油蔵や、ご飯のお供にする径山寺味噌(金山寺味噌)の店の看板を探す。
- 角長と資料館を見学(後述)。
- 体験:湯浅醤油有限会社では工場見学や醤油づくり体験を行っています。
- 昼食には沿岸の名物しらすを。
町全体を「まちごと醤油ミュージアム」として見せる取り組みがあり、古い建物で小さな展示が行われています。ただしテーマパークではなく人が暮らす町なので、住宅の前での撮影は控えめに。
角長を訪ねる:手づくり醤油の資料館
天保12年(1841年)創業の角長は、湯浅で現役最古の醤油蔵であり、江戸時代からの蔵で今も手づくりを続ける唯一の蔵です。戦後20数軒あった醤油蔵は減り続け、1970年には昔ながらの製法を守るのは角長1軒になりました。仕込み蔵にすみつく蔵付き酵母が味を生むとして、創業以来建て替えをしていません。
角長の特徴:
- 寒仕込み:冬の冷たい水は雑菌が少なく、麹の温度管理もしやすい。
- 吉野杉の木桶。
- 岡山県産丸大豆と岐阜県産小麦。遺伝子組み換え原料・保存料不使用。
- 松の薪による火入れ:江戸時代と同じく和釜で半日かけて炊き上げる。
- 商品名は「湯浅たまり」ですが、大豆と小麦が半々の、種類としてはこいくち醤油です。「たまり」は歴史的な呼び名です。
見学は2棟。職人蔵は慶応2年(1866年)建築、80㎡の仕込み蔵で、足踏み式の小麦ひき割り機、搾り道具、仕込み桶、帳場など、実際に使われた道具が並びます。新しい醤油資料館ではジオラマやパネルで製法を紹介しています。
基本情報:
- 入館・駐車場無料
- 見学時間:9:00〜12:00、13:00〜17:00。年中無休(不定休)
- 案内付き見学:約40分、電話(0737-62-2035)で要予約。最大50名、大型バス2台まで駐車可。
- 店舗:本店(保存地区内)と国道42号沿いの国道店。いずれも9:00〜17:00。
- アクセス:JR湯浅駅から徒歩15分。
お土産には、湯浅たまりの瓶や小瓶(サイズにより数百円〜数千円)、冷蔵保存できるなら濁り醤(にごりびしお)、町内の別の店で径山寺味噌も。角長は海外発送を行っていないため、持ち帰りが前提です。
小豆島:木桶の島とヤマロク醤油
瀬戸内海で2番目に大きな島・小豆島は、国内ではオリーブ、食通の間では醤油蔵の島として知られています。醤油造りは江戸時代に始まり、島の塩田の塩と海運が発展を支えました。蔵は島の南東部、内海と坂手の間の「醤の郷(ひしおのさと)」に集まり、風向きによっては町中に醤油の香りが漂います。
島には醸造用の木桶が約1,000本あり、全国で使われている木桶のほぼ半数にあたります。小さな資料館やカフェを併設する蔵も多く、案内付きの見学ができる蔵もあります。最大手のマルキン醤油は、木造の旧工場を使った醤油記念館(有料、大人500円程度)を運営しています。
約150年の歴史を持つ5代目のヤマロク醤油は、愛好家の間で最も知られた蔵です。山本康夫さんは2011年に「木桶職人復活プロジェクト」を立ち上げました。2009年に最後の桶屋の一つに新桶9本を発注した際、「醤油屋から新桶の注文が来たのは戦後初」と言われたのがきっかけです。2012年に島の大工2人と弟子入りし、吉野杉と竹の箍で作った最初の新桶が2013年9月20日に完成。以来毎年1月には、全国の職人や醸造家が島に集まって桶を作っています。
ヤマロク醤油の見学:
- 無料・予約不要。突然の訪問にも対応しています。普段見られない天然もろみ蔵に入り、木桶と表面のもろみを間近に見られます。
- お願いは一つ:見学前に納豆を食べないこと。納豆菌はもろみの酵母や乳酸菌にとって大敵で、醤油蔵では昔からの決まりです。
- 軒先のやまろく茶屋(9:00〜17:00、無休):鶴醤をかけて食べるアイスクリーム、しょうゆプリン(土日祝)、コーヒー(各440円)。
- 看板商品の鶴醤は約4年熟成の再仕込み醤油。まずはアイスにかけて味わってみてください。
- アクセス:島の南東部、寒霞渓へ向かう山のふもと。道が狭く駐車は4〜5台のため、大型バスは手前で停めて徒歩で向かいます。

味比べ、お土産、アクセス:訪問の計画
醤油の味わい方:白いスプーンや小皿に数滴とって色と香りを確かめ、冷奴、刺身、白いご飯で味わいます。必ず2種類以上、できれば工業製品のこいくちと木桶仕込みを比べましょう。小豆島や湯浅の蔵では店頭で試飲できるところが多く、団体なら解説付きの味比べを事前に依頼できます。
お土産:持ち運びやすい100〜300mlの瓶(蔵の醤油で数百円〜1,500円程度)、味比べセット、ぽん酢、刺身醤油。小豆島ならオリーブオイルや、醤油で炊いた島の名物佃煮も。醤油は預け荷物で問題なく運べますが、瓶はしっかり梱包を。
湯浅への行き方:
- 大阪から:天王寺から特急くろしおで和歌山まで約1時間、紀勢本線の普通列車で湯浅まで約30分。駅から保存地区まで徒歩15分。
- 貸切バス:阪和道有田ICから国道42号へ。
- 和歌山城、高野山、熊野古道の起点と組み合わせられます。
小豆島への行き方(橋はなく船のみ):
- 高松から:土庄港までフェリー約60分、高速船約35分。池田港(約60分)、坂手港(約75分)行きもあり、坂手が醤の郷に最も近い港です。
- 関西から:神戸→坂手(約3時間10分)、姫路→福田(約1時間40分)。
- 岡山から:新岡山→土庄(約70分)、日生→大部(約60分)。
- 島内のオリーブバスは本数が少ないため、レンタカー、タクシー、またはフェリーに載せた貸切バスで。
所要時間は、湯浅なら大阪・和歌山から半日。小豆島は1泊がおすすめで、午前に蔵めぐり、寒霞渓、干潮時のエンジェルロード、瀬戸内海の夕日まで楽しめます。JRパスなら岡山、倉敷、直島などアートの島との組み合わせも好相性です。

団体で醤油の産地をめぐる
醤油は誰もが家に1本は持っている調味料で、蔵の醤油との違いは一口でわかるため、団体旅行のテーマとして取り入れやすい題材です。おすすめの形は2つ:
- 大阪発、湯浅で半日:角長の案内付き見学(最大50名、要予約)、保存地区の散策、グループに分かれての醤油づくり体験、しらすの昼食。夜は大阪へ。
- 小豆島で1泊2日:フェリーで渡り(バスごと乗船可)、ヤマロク醤油を含む2〜3軒の蔵、解説付きの味比べ、佃煮とオリーブオイルの昼食、海辺のホテル泊。直島の美術館と組み合わせれば、アートと食のプログラムになります。
注意点:
- グループの人数:仕込み蔵は狭いため1回15〜25名が適当。蔵、売店、散策を班ごとにローテーションします。
- 蔵のルール:見学前の納豆は禁止、もろみに触れない、蔵内で飲食しない。
- 言語:案内は日本語のため、発酵に詳しい通訳ガイドがいると内容が格段に深まります。
- 天候とフェリー:強風時は高速船が欠航します。最終便には余裕を持って。
- 記念品:名入れの木桶醤油の小瓶や味比べセットは持ち運びやすく、旅の記憶に残ります。
食品や外食業界の参加者なら、醸造家との対話、工業製法と伝統製法の比較、木桶の将来についての意見交換など、より専門的な内容にもできます。SHINOGI DMCでは、蔵の予約、フェリー、貸切バス、バイリンガルガイドまで含めて手配します。
よくあるご質問
日本の醤油はどこで生まれましたか。
伝承では和歌山県湯浅町です。鎌倉時代に覚心が宋から伝えた径山寺味噌の桶にたまった汁が起源とされ、2017年に日本遺産に認定されました。
こいくちとうすくちの違いは何ですか。
こいくちは色が濃い標準的な万能醤油、うすくちは色が淡い一方で塩分は高めで、主に関西料理で素材の色を生かしたいときに使います。
日本で醤油蔵の見学はできますか。
できます。湯浅の角長は資料館を無料公開しており、予約すれば約40分の案内があります。小豆島のヤマロク醤油は予約不要・無料で、ほかにも資料館や売店のある蔵があります。
醤油蔵の見学前に納豆を食べてはいけないのはなぜですか。
納豆菌は非常に強く、もろみの酵母や乳酸菌が苦手とするため、もろみを汚染するおそれがあります。醤油蔵や酒蔵に昔から伝わる決まりです。
小豆島へはどう行きますか。
船のみです。高松から35〜75分(港と船種による)、新岡山から約70分、姫路から約1時間40分、神戸から約3時間10分。醤の郷に最も近いのは坂手港です。
木桶仕込みの醤油はどのくらいありますか。
生産量の1%以下です。小豆島には約1,000本の木桶があり、全国で使われている木桶のほぼ半数を占めます。
Rédaction SHINOGI DMC · 更新日
出典
- Kadocho — Histoire du shoyu de Yuasa et présentation
- Kadocho — Musée (horaires, réservation, capacité, accès)
- Kadocho — Étapes de fabrication
- Kadocho — FAQ (brassage d'hiver, matières premières, autocars)
- Kadocho — Boutiques et informations sur l'entreprise
- JNTO — Japan's Essential Seasoning: the 1,200-year history of soy sauce (Yuasa)
- Yamaroku Shoyu — Visite et accès (ferries, bus, consigne natto)
- Yamaroku Shoyu — Projet de renaissance des fûts en bois
- Yamaroku Shoyu — Yamaroku Chaya (horaires, carte)
- MLIT (base multilingue) — Shodoshima Soy Sauce: An Aromatic Tradition









