但馬牛・但馬ビーフ・神戸ビーフの違い
3つの名前は同じ血統の、異なる段階を指しています。但馬牛(たじまぎゅう/たじまうし)は生きた牛のことで、兵庫県北部、中国山地と日本海に挟まれた但馬地方で受け継がれてきた黒毛和種の系統です。兵庫県で生まれ、県内の指定生産者が育て、県内の食肉センターで処理された但馬牛が格付けを通過すると但馬ビーフとして流通します。その中でさらに厳しい基準を満たした枝肉だけが神戸ビーフ(神戸牛、神戸肉)を名乗れます。
A5などの格付け、各地のブランド和牛、レストランでの価格は「和牛と神戸ビーフ」の記事で詳しく紹介しています。この記事では生産の源流をたどり、なぜ特別なのか、現地で何が見られるのかをまとめます。
産地から150km離れた港町の名がついたのはなぜか。但馬牛は何百年もの間、雪深い谷の棚田を耕す役牛でした。小柄で丈夫、おとなしい性格です。幕末に神戸港が開港すると、居留した外国人がこの牛肉を買い求め、積み出し港の名で世に広めました。その名が定着し、現在は商標として守られています。
規模の目安として、市場に出る但馬牛は年間約7,000頭、そのうち神戸ビーフ認定は約5,500頭。協議会によれば国内の牛肉消費量の0.2%にも満たない量です。但馬で見られるのは、なによりもこの小さな生産を支える農村の風景です。
美方地域の牛籍簿と名牛「田尻号」
但馬牛を特別な存在にしているのは、飼い方以上に閉鎖育種による血統です。兵庫県では但馬牛の雌に県内産の但馬牛の種雄牛だけを交配し、100年以上にわたって外部の血を入れていません。きめ細かな肉質と細かなサシは、この地道な改良の積み重ねです。
その中心となったのが美方地域、現在の香美町と新温泉町です。県の北西端、狭い谷あいで水田は少なく、雪も多い土地で、人々は稲作と牛の飼育、出稼ぎで暮らしてきました。江戸時代から名高い系統(蔓牛)が育まれ、1897年(明治30年)ごろには全国に先駆けて村ごとの牛籍簿による血統登録が始まりました(子牛市の記録は1849年までさかのぼります)。美方郡は全国の黒毛和種で唯一、郡内産の牛だけで改良を続けてきた地域で、ほかにない遺伝資源が守られています。堆肥が田畑を肥やし、稲わらと草が牛を養う循環の仕組みは、2019年に日本農業遺産、2023年7月に世界農業遺産(GIAHS)に認定されています。地域では約2,000頭の但馬牛の繁殖牛が飼われています。
この物語で最も有名なのが一頭の牛です。田尻号は1939年、小代村(現・香美町小代区)の田尻松蔵さん宅で生まれ、1954年まで生きました。優れた種牛として、全国の黒毛和種の雌牛の99.9%がその子孫といわれます。松阪牛、近江牛、飛騨牛など、国内の黒毛和牛のほとんどに但馬の血が流れているということです。実際、兵庫県で生まれた子牛の一部は他県で肥育されています。
訪れる人の目に映るのは、谷あいに点在する数十頭規模の牛舎、全国平均より小柄な黒い牛(但馬牛の枝肉は約420kgで、平均より50kgほど軽い)、そして道路標識にまで表れる地元の誇りです。

但馬牛の子牛が神戸ビーフになるまで
生産の流れは4段階で、すべて兵庫県内で完結します。
- 繁殖農家での誕生:繁殖農家が血統を見て交配を決め、子牛を血統登録し、10桁の個体識別番号の耳標をつけます。子牛は生後8〜9か月まで農家で育てられます。
- 子牛のせり:子牛はJAたじまが運営する但馬家畜市場に出され、ほぼ毎月せりが行われます。肥育農家が血統や体型を見て競り落とし、近年は1頭平均50万円を超えることも珍しくありません。業界の取引の場であり観光施設ではないため、見学は紹介者の同行が前提です。
- 肥育:指定生産者のもとで約2年。稲わら、トウモロコシ、大麦、ふすま、大豆などを与え、清浄な水で育て、放牧はしません。出荷は最低28か月、平均30〜32か月で、一般的な黒毛和種より2〜4か月長く飼育します。ビールやマッサージの話は多くが俗説で、協議会も標準的な飼い方ではなく肉質への効果は証明されていないとしています。
- と畜・格付け・認定:県内の食肉センターで処理され、日本食肉格付協会が格付けします。基準を満たした但馬牛は但馬ビーフとして流通し、そのうち未経産牛・去勢牛でBMS6以上、歩留等級AまたはB、枝肉重量499.9kg以下、きめ細かな肉質のものに野路菊の刻印が押され、神戸ビーフとなります。
10桁の番号は食卓まで肉に付いてまわり、協議会の検索システムで血統、生産農家、市場、と畜日を確認できます。信頼できる店なら尋ねなくても提示してくれます。

但馬牛博物館と兵庫県立但馬牧場公園
牧場を個別に訪ねずに但馬牛を見るなら、新温泉町の兵庫県立但馬牧場公園が出発点です。湯村温泉からタクシーで約10分の高台にあり、放牧地、見学できる牛舎、遊具、レストランを備えた広い公園です。
園内の但馬牛博物館は1994年の開園とともに開館し、血統の歴史、牛籍簿、村の暮らしにおける牛の役割、神戸ビーフへの流れを、パネルや模型、体験型展示で紹介しています。県立人と自然の博物館とのコラボ展など企画展も開かれます。解説は主に日本語のため、外国人ゲストにはガイド付きで約45分、自分で回るなら20分程度が目安です。
基本情報:
- 所在地:兵庫県美方郡新温泉町丹土1033
- 開園時間:9:00〜17:00。木曜休み(祝日の場合は翌日)
- 入園料:無料
- 体験(要予約):但馬牛のローストビーフづくり(6,000円)、時期によっては飼育員と一緒のブラッシング体験も。
- レストランふるさと(園内、10:00〜16:30):但馬牛の食べ比べセット5,880円(要予約)、但馬牛弁当1,800円。
すぐ下の湯村温泉と組み合わせるのがおすすめです。源泉「荒湯」は98℃で、かごに入れた卵を浸して温泉卵を作れます。歴史に関心があれば、田尻号のふるさと小代(香美町)に記念碑があり、美方地域らしい棚田の風景も見られます。
注意点として、公園は標高が高く冬は積雪が多いため、12〜2月は事前に電話(0796-92-2641)で確認し、バスは冬用タイヤの手配を。
但馬牛の牧場見学:できること、できないこと
愛好家からほぼ必ず聞かれるのが「本物の牧場を見られるか」という質問です。答えは可能ですが、突然訪ねることはできません。但馬牛の生産者は小規模な家族経営が中心で、最優先されるのは防疫です。口蹄疫や鳥インフルエンザなどの家畜伝染病は国内で大きな被害を出してきており、訪問者は誰もが感染を持ち込む可能性があります。
現場では次の点が求められます:
- 事前予約なしの訪問は不可。農協、地元の観光協会、生産者とつながりのあるガイドを通じて手配します。
- 入口で靴の消毒、場合によってはシューズカバー。柵の内側には入らず、勧められない限り牛に触れない。
- 1日1か所の牧場までが一般的な目安。最近家畜伝染病が発生した国・地域からの直行は避けます。
- 数日以内に家畜と接触した参加者は見学を控える(団体の事前アンケートで確認)。
- 撮影は許可を得てから。生産者の名前や住所を無断で公開しない。
見学では、清潔な牛舎、1日2回手で与える飼料、2〜3世代で営む家族の姿、血統選びや子牛価格、飼料高や高齢化といった厳しい経営の話を聞くことができます。食品、流通、外食業界の参加者にとっては、旅で最も印象に残る時間になることが多い内容です。
希望日に牧場見学が難しい場合は、但馬牧場公園で間近に牛を見たうえで、神戸の指定店の精肉店やシェフから証明書や部位の話を聞く組み合わせが代替案になります。
但馬牛と神戸ビーフを味わう:地元と神戸で
但馬では主に但馬ビーフが味わえます。同等の品質の神戸ビーフより手頃なことが多く、気取らない形で出てきます。
- 但馬牧場公園のレストラン:昼の食べ比べに。
- 湯村温泉や城崎温泉の旅館:但馬牛の一品(しゃぶしゃぶ、石焼きステーキ、すき焼き)を含む会席。冬は日本海のカニと組み合わせることが多いです。
- 豊岡、養父、香美町の精肉店併設の食事処:カウンターで部位を選べます。
神戸では三宮・元町周辺に店が集まり、目の前で焼く鉄板焼き、ステーキハウス、焼肉、すき焼きなどがあります。「神戸風」などあいまいな表示を避けるには、協議会が指定店に贈る但馬牛のブロンズ像と、10桁の番号が入った証明書の2点を確認すれば十分です。2026年の価格帯や食事のスタイルは「和牛と神戸ビーフ」の記事で紹介しています。
体験の質を上げる3つのポイント:
- 同じ店・同じ肉でもランチはディナーよりかなり割安です。
- サシの多い一切れより、BMSの異なる但馬ビーフと神戸ビーフの食べ比べの方が違いがわかります。BMS11よりBMS7〜8を好む海外ゲストも多いです。
- 量は霜降り肉なら100〜150gで十分。それ以上は脂で口が重くなります。
なお、生肉はEUへの持ち込みができません(旅行者による肉製品の輸入は禁止)。お土産はたれや出汁、包丁などが現実的です。

但馬へのアクセスと組み合わせたい観光地
美方地域は関西の奥まった場所にあり、だからこそ環境が守られてきました。大阪からは北近畿豊岡自動車道経由で車で約3時間。鉄道なら:
- 特急はまかぜ(大阪・三ノ宮発)で浜坂まで大阪から約3〜3時間半、バスかタクシーで湯村温泉(約20分)と公園へ。
- 特急こうのとりで豊岡または城崎温泉まで(大阪から約2時間半)、山陰本線で西へ(香住、浜坂)または車で。
- 飛行機:伊丹空港からコウノトリ但馬空港まで約35分。城崎から12km。
車や貸切バスがない場合は乗り継ぎの本数が少ないため、行程に余裕のない計画で路線バスに頼るのはおすすめしません。
1泊2日のおすすめ行程:
- 1日目:大阪または京都 → 城下町出石(皿そばの昼食) → 城崎温泉泊。但馬牛の夕食と外湯めぐり。
- 2日目:海沿いを西へ。香住港(季節によりカニ)と余部橋梁 → 但馬牧場公園と博物館 → 湯村温泉 → 大阪・神戸へ戻り、認定店で神戸ビーフの夕食。
景観を楽しむなら、山陰海岸はユネスコ世界ジオパークに認定されており、4〜11月は遊覧船で断崖や入り江を巡れます。冬は雪景色が見事ですが、山道は雪道に慣れた運転手が必要です。
団体向け「但馬牛の産地をめぐる」旅
15〜40名の団体なら、大阪または京都発着の1泊2日で、城崎か湯村の旅館に泊まる形が最適です。特に関心が高いのは、食品・外食・流通業界の視察、食の愛好会、そして単なる牛肉ディナー以上のテーマを求めるインセンティブ旅行です。
良いプログラムの構成要素:
- 但馬牧場公園と博物館:専門家には育種や遺伝、一般の参加者には歴史や景観と、内容を調整できる通訳ガイド付きで。
- 牧場見学:1回10〜15名までの少人数で、必要なら2班に分け、前述の防疫ルールを守って。
- 体験:公園でのローストビーフづくり、または精肉店での部位の説明と試食。
- 食べ比べのディナー:但馬で但馬ビーフ、神戸で認定神戸ビーフ。証明書の見方の説明付きで。
- お土産:地元のたれや調味料、関西の包丁、但馬の地酒。海外への肉の持ち帰りは不可。
注意点は、貸切バスが必須であること(冬はチェーンや冬用タイヤ)、牛肉を食べない参加者への代替メニュー、せりを見学したい場合の開催日の確認です。家畜伝染病の警戒時には前日でも見学が断られることがあるため、必ず代替案を用意しておきます。
SHINOGI DMCでは、バイリンガルガイド、旅館や指定店の予約、地元関係者との調整を含めて、このようなプログラムを組み立てることができます。
よくあるご質問
但馬牛と神戸ビーフの違いは何ですか。
但馬牛は血統(および兵庫県で生まれ育った牛の肉)を指し、神戸ビーフはそのうちBMS6以上、歩留等級AまたはB、枝肉重量499.9kg以下、未経産牛または去勢牛という最も厳しい基準を満たしたものです。
神戸ビーフの牛はどこで生まれますか。
兵庫県内の指定生産者のもとで生まれ、主な産地は県北部の但馬地方です。美方地域(香美町・新温泉町)が血統の発祥地とされます。
神戸ビーフの牧場は見学できますか。
自由には見学できません。牧場は個人経営で防疫ルールが厳しいため、農協や地元団体、ガイドを通じて少人数で手配します。予約なしで牛を見られるのは兵庫県立但馬牧場公園です。
但馬牛博物館は有料ですか。
博物館のある但馬牧場公園は入園無料です。9〜17時開園、木曜休み(祝日の場合は翌日)。ローストビーフづくり(6,000円)などの体験は要予約です。
田尻号とはどんな牛ですか。
1939年に小代村(現・香美町)で生まれ、1954年まで生きた但馬牛の種雄牛です。全国の黒毛和種の雌牛の99.9%がその子孫といわれます。
神戸ビーフは年間何頭認定されますか。
神戸肉流通推進協議会によると、年間に出荷される約7,000頭の但馬牛のうち約5,500頭です。
Rédaction SHINOGI DMC · 更新日
出典
- Kobe Beef Marketing & Distribution Promotion Association — Classification (élevage, engraissement, critères)
- Kobe Beef Marketing & Distribution Promotion Association — FAQ (lignée, volumes, poids de carcasse)
- FAO — GIAHS : Integrated Farming System for Harmonizing People and Cattle in the Mikata District
- MAFF — Patrimoine agricole : système du bœuf Tajima de la région de Mikata
- Préfecture de Hyogo — Patrimoine agricole mondial et japonais
- Préfecture de Hyogo — Informations du marché aux bestiaux de Tajima
- Préfecture de Hyogo — Exposition 2025 du musée du bœuf Tajima
- Hyogo Tourism — Shin-onsen, birthplace of Tajima cattle (parc Tajima Bokujo, horaires, expériences)








