本わさびと「わさび」の違い:普段口にしているものは
ヨーロッパの寿司店や、国内でも手頃なチェーン店で出される緑のペーストは、多くの場合わさびではなく、西洋わさび(ホースラディッシュ)にからし、でんぷん、着色料を加えたものです。辛みが強く、口の中に長く残ります。
本わさび(学名 Eutrema japonicum、Wasabia japonica とも)は日本原産のアブラナ科の植物で、食べるのは水際で育つ太くごつごつした根茎です。すりおろすと淡い緑色で、ほのかな甘みがあり、ツンと鼻に抜けたあとすっと消える辛さが特徴です。この辛み成分は細胞がつぶれたときに生まれる揮発性の物質で、15分ほどで飛んでしまいます。そのため良い店では、出す直前に少量ずつおろします。
本わさびの見分け方です。
- 見た目:きめが粗く水分を含み、色はやわらかな緑。均一な鮮やかな緑ではありません。
- 味:青々とした香り、短い辛み、後味にほのかな甘み。
- 出し方:板前が鮫皮おろしで、葉の付け根側から円を描くようにおろします。
- 表示:チューブ製品では「本わさび使用」「本わさび入り」などの表示で本わさびの割合の大小がわかります。表示がなければ西洋わさびが主原料です。
価格の差も理由があります。本わさびは清らかな水で1年以上かけて育ちますが、西洋わさびはどこでも育ちます。わさび田のそばで本物を味わえば、日本の料理人がこだわる理由がひと口でわかります。

わさびの育ち方:湧き水、日陰、そして時間
上質なわさびは「沢わさび(水わさび)」と呼ばれ、冷たく澄んだ湧き水が絶えず流れる砂利の田で育ちます。林の日陰で育てる「畑わさび」もあり、主に葉や茎が使われますが、最も珍重される根茎は水で育ったものです。
栽培の条件は厳しく、
- 冷たく安定した水:夏と冬で水温差が小さく、非常に清らかであること。肥料は使わず、流れる水から養分を得ます。
- 日陰:わさびは日差しと暑さに弱く、安曇野のわさび田ではポプラやアカシアを植え、夏は黒い寒冷紗で覆います。
- 時間:植え付けから収穫まで1年以上、多くは1年半〜2年かかります。
大王わさび農場では、作業はすべて手仕事です。ジョレンで石を洗って整地し水の流れを整える、傾斜に合わせて畝を立てる、畝の両側に苗を手で植える、排水路の掃除やアオミドロ・雑草の除去などの手入れをする、そして一株ずつ手で掘り取って収穫します。
わさびは丸ごと食べられます。葵に似た葉の形が「山葵」という漢字の由来とされ、白い花は年に3回(12月ごろ、3月ごろ、5月ごろ)咲きます。3月の花はわさび田を白く彩り、天ぷらにもなります。
静岡県では明治中期に「畳石式」が生まれました。山あいの谷に階段状の田をつくり、大きさの異なる石を層にして水をろ過する方式で、収量を大きく伸ばし、今も高品質な根茎づくりの基本となっています。
わさびの発祥地・静岡:有東木、伊豆、世界農業遺産
観光客が最も多いのは安曇野ですが、わさび栽培の発祥地は静岡です。約400年前、静岡市北部の山間の集落有東木(うとうぎ)で、村人が沢の上流で見つけた野生のわさびを湧き水のほとりに植えたのが始まりと伝えられています。駿府に隠居した徳川家康がこれを好み、村外への持ち出しを禁じたという話も残っています。
「静岡水わさびの伝統栽培」は2017年に日本農業遺産、2018年3月にFAOの世界農業遺産(GIAHS)に認定されました。対象は有東木と、伊豆半島の伊豆市、下田市、東伊豆町、河津町、松崎町、西伊豆町の谷あいのわさび田です。
最近の統計(農林水産省の令和6年統計、静岡県公表)では、
- わさびの産出額は静岡県が全国の約63%で1位、長野県が2位。
- 水わさびの根茎生産量は静岡県が約210トン(全国の53%)、長野県が約157トン(約40%)。
旅行者にとっての違いは次のとおりです。
- 安曇野(長野):平地に広がる大規模な農場で、アクセスがよく見学向けに整っています。
- 伊豆(静岡):山の斜面に階段状の畳石式わさび田が広がり、景観は見事ですが点在しています。天城越えの道沿いにある浄蓮の滝周辺では遊歩道からわさび田が見え、生わさびを売る店もあります。
- 有東木:静岡駅からバスで約1時間。最も原風景に近い場所ですが、私有地のわさび田に入るにはガイドが必要です。
短い旅程で両方を回るのは難しいため、北アルプス方面(松本、白馬)なら安曇野、富士・箱根・伊豆方面なら伊豆と考えるとよいでしょう。
安曇野・大王わさび農場:営業時間、料金、見どころ
安曇野市穂高の大王わさび農場は、日本最大級の水わさび農場で、平地のわさび農場としては日本最大です。砂利ばかりの荒れ地だった約15ヘクタールの土地で1917年に開拓が始まり、約20年かけてわさび田が完成しました。北アルプスの雪解け水が扇状地にしみ込み湧き出したもので、「安曇野わさび田湧水群」は1985年に名水百選に選ばれています。
基本情報(公式サイト)
- 入場無料
- 営業時間:3月〜11月は8:00〜17:00、12月〜2月は9:00〜16:00。定休日は12月31日。営業時間外は入場不可。
- 注意事項:お弁当の持ち込み不可。ペットはリード着用、お土産処には同伴不可。
1時間30分〜2時間で回れる見どころです。
- わさび田:ゆるやかな傾斜の畑の間を通路が通り、夏は黒い寒冷紗で覆われます。水の透明度に驚かされます。
- 三連水車:蓼川沿いの、安曇野で最も撮影される風景。黒澤明監督の映画『夢』(1990年)にも登場します。
- クリアボート:提携会社がシーズン中に運航。北アルプスに向かって川をこぎ上り、下りは流れに任せて川底を眺めます。有料、通常10:00〜14:00、天候により運休あり。
- 大王神社と大王窟:朝廷軍に抵抗したと伝わる魏石鬼八面大王の伝説にちなみます。
- わさび田ウォーキング:特定日に開催。普段は入れないわさび田に、農場のスタッフと一緒に入れます。
おすすめは平日の開場直後8時です。ゴールデンウィーク、9月のシルバーウィーク、夏の週末は駐車場が満車になり、昼ごろはお土産処が混雑します。3〜4月は白い花が咲き、夏は水の冷気で暑い日でも快適です。

何を味わい、何を持ち帰るか:そば、ソフトクリーム、わさび漬け、生わさび
見学の締めくくりは食事です。大王わさび農場でも安曇野のそば店でも、さまざまな形でわさびを味わえます。
- 信州そば:冷たいそばに、自分でおろした生わさびをつゆに溶かさず麺にのせて食べるのがおすすめです。
- わさび丼:熱いご飯にかつお節、醤油少々、おろしたての本わさびをたっぷり。最も簡単で、違いがよくわかる食べ方です。
- わさびソフトクリーム:誰もが写真を撮る名物。まろやかで、後からほんのり辛みが来ます。
- わさび漬け:茎や根茎を酒粕に漬けたもの。ご飯やクリームチーズに合います。
- 葉と花:塩漬け、春は花の天ぷら。
農場内には食事処とカフェがあり、カフェのドリンクにはわさびを育てる湧き水が使われています。
生わさびの選び方:硬く、色がはっきりした緑で、節(こぶ)の間隔が詰まったものを選びます。湿らせた紙で包んで冷蔵庫に入れ、紙を2日おきに替えれば2〜3週間ほど持ちます。おろすときは葉の付け根側から、円を描くように、食べる直前に。
海外へ持ち帰る場合、EUでは生鮮植物の持ち込みが植物検疫で制限されるため、真空パックのわさび漬け、本わさびのペーストや調味料、わさび塩などの加工品がおすすめです。液状・ペースト状のものは預け荷物へ。鮫皮や銅のおろし金も軽くて実用的なお土産です。
現地で見た価格の目安は、ソフトクリームが数百円、わさび漬けが数百円から千円少々、生わさびは大きさにより数百円から数千円です。
松本・白馬・東京から安曇野へのアクセスと所要時間
農場はJR大糸線穂高駅から約2.3kmで、タクシーで約10分、徒歩約30分、自転車なら15分ほどです。駅前にレンタサイクル店が数軒あり、田んぼとわさび田の間の平坦な道は走りやすいです。JR篠ノ井線明科駅からは約4km、タクシーで約20分。車なら長野自動車道安曇野ICから約10分です。
所要時間の目安です。
- 松本から:大糸線で穂高駅まで約30分、そこからタクシーか自転車。
- 白馬から:大糸線で南へ約1時間、車なら約50分。
- 東京から:新宿から特急「あずさ」で松本まで約2時間30分〜2時間45分、大糸線に乗り換え。穂高・白馬まで直通する「あずさ」もあります。
滞在時間は農場で2時間、食事とボートを含めれば3時間。松本と白馬の間で半日立ち寄るのが理想的です。
組み合わせたい周辺スポット
- 松本城:16世紀の天守が現存する国宝。電車で約30分。
- 碌山美術館:穂高駅から徒歩数分、彫刻家・荻原守衛(碌山)の美術館。
- 上高地:夏から秋、北アルプスの麓の気軽なハイキングに(松本からバス)。
- 白馬:山の拠点として、夏はハイキング、冬はスキー。
午前に松本城、昼にそば、午後に安曇野と大王わさび農場、夕方に白馬着というのが定番の流れです。

団体でのわさび農場見学:食事、時間帯、体験
大王わさび農場は団体の受け入れに慣れており、団体食事メニューを公開しています。予約は5名から、3日前まで。料金は1人1,760円〜3,630円(自分でわさびをおろす「My本わさび丼」、安曇野名物の虹鱒、湧水で締めた信州そば、デザートなど)で、キャビア、国産牛、信州サーモンを本わさびで味わう7,700円のコースもあります。内容は季節や収穫状況で変わります。
20〜40名の団体での進め方です。
- 開場直後(3〜11月は8時)に到着し、昼前の観光バスが来る前に散策を済ませ、11時30分ごろに予約の昼食。
- 全員が自分でわさびをおろす:自分でおろすわさび丼は最も印象に残る体験で、特別な準備もいりません。
- クリアボートは小型なので、少人数なら事前予約、大人数なら自由時間のオプションにします。
- 通訳ガイドを手配:案内表示は日本語中心です。湧き水、水車、栽培の歴史を説明できると見学の厚みが変わります。
- 組み合わせ:午前に松本城、または白馬に1泊。白馬の山岳リゾートホテルは研修や団体夕食に対応しています。
白馬での研修や東京〜北アルプスのプログラムに、3時間ほどの安曇野立ち寄りを入れると、会議続きの日程に変化がつき、記憶に残ります。SHINOGI DMCでは、東京〜白馬のプログラムの中で、バス、昼食予約、ガイド、時間配分まで手配しています。
よくあるご質問
本わさびと西洋わさびの違いは何ですか。
本わさびは湧き水で育つ日本原産の植物の根茎をおろしたもので、辛みは短くほのかに甘いのが特徴です。多くの店で出る「わさび」は西洋わさびにからしや着色料を加えたものです。
大王わさび農場は入場無料ですか。
はい、入場無料です。3〜11月は8:00〜17:00、12〜2月は9:00〜16:00、12月31日休み。クリアボートや食事は有料です。
松本から大王わさび農場へはどう行きますか。
JR大糸線で穂高駅まで約30分、そこからタクシーで約10分、レンタサイクルで約15分、徒歩なら約30分(2.3km)です。
わさび栽培の発祥地はどこですか。
静岡市の有東木で約400年前に始まったと伝えられています。「静岡水わさびの伝統栽培」(有東木と伊豆半島)は2018年に世界農業遺産に認定されました。
生わさびはどのくらい日持ちしますか。
湿らせた紙で包み2日おきに替えれば、冷蔵で2〜3週間ほどです。おろしたわさびは15分ほどで辛みが飛びます。
大王わさび農場で団体の昼食はとれますか。
はい。5名から3日前までの予約で、1人1,760〜3,630円の団体メニューと7,700円のコースがあります。自分でわさびをおろす丼が特に好評です。
Rédaction SHINOGI DMC · 更新日
出典
- Daio Wasabi Farm — site officiel (horaires, accès, entrée gratuite)
- Daio Wasabi Farm — À propos du wasabi et de la culture
- Daio Wasabi Farm — Menus de groupe
- Daio Wasabi Farm — Wasabi-da walking
- Azumino Kisen — Clear boat
- MAFF — Culture traditionnelle du wasabi de Shizuoka (GIAHS)
- Préfecture de Shizuoka — Wasabi, premier rang national (statistiques 2024)
- Préfecture de Shizuoka — Plan de conservation du wasabi (Utogi, tatami-ishi)









