和紙とは何か、なぜ美濃なのか
和紙とは、樹皮の長い繊維からつくる日本の手漉き紙のことです。主な原料は楮(こうぞ)、ほかに三椏(みつまた)や雁皮(がんぴ)も使われます。洋紙に使う木材パルプの10倍ほども長い繊維が、砕かれずに絡み合うため、薄く透けるのに丈夫で、折っても揉んでも破れにくく、何百年ももちます。
岐阜県の中央、人口約1万9千人の美濃市は、その産地の一つです。長良川とその支流が冷たく澄んだ水を、周囲の山々が楮をもたらしました。奈良の正倉院には702年の美濃国戸籍が残り、日本最古級の紙とされます。江戸時代には武家屋敷の障子紙や公文書に使われ、「美濃紙」は紙の寸法の基準になるほどの評価を得ました。
現在は大きく三つに分けて考えるとわかりやすいでしょう。
- 広い意味での美濃和紙:1985年に国の伝統的工芸品に指定。工房により手漉きと機械漉きがあります。
- 本美濃紙:厳しい要件のもとで漉かれる手漉き和紙。1969年に国の重要無形文化財に指定。
- 典具帖紙などの機能紙:極めて薄く、世界の美術館で絵画や古書の修復に使われています。
本美濃紙をつくる工房はわずかで、本美濃紙保存会として技術の継承と後継者の育成に取り組んでいます。
ユネスコ無形文化遺産・本美濃紙はどうつくられるのか
2014年、ユネスコは「和紙:日本の手漉和紙技術」を無形文化遺産に登録しました。対象は美濃の本美濃紙、島根県浜田市の石州半紙、埼玉県小川町・東秩父村の細川紙の三つ。共通点は、原料が楮のみであること、そして機械化せずに受け継がれてきた技です。
本美濃紙と名乗るには、次の工程を守る必要があります。
- 原料:細く光沢のある繊維で知られる、茨城県大子町産の那須楮のみ
- 煮熟:楮の白皮を草木灰またはソーダ灰で煮る(強い薬品は使わない)
- ちり取り:冷たい水に浸し、不純物を一つずつ手で取り除く。1kgあたり何時間もかかる作業で、地域の女性たちが担ってきました
- 叩解と紙料の調合:繊維を木槌で叩き、漉き舟でトロロアオイの根から採った粘剤「ねり」と混ぜる。ねりが水の抜けを遅くします
- 流し漉き:簀桁を汲み込み、前後に揺らす「縦揺り」に、美濃の特徴である左右の「横揺り」を加えます。繊維があらゆる方向に絡み、むらのない丈夫な紙になります
- 板干し:板に貼って天日で乾かし、柔らかく、ほのかな光沢のある紙肌に仕上げます
光にかざしても地合いのむらがほとんど見えないほど均一なのが本美濃紙です。1枚数千円以上し、年間の生産量もごくわずかです。

うだつの上がる町並み:美濃の旧市街の見どころ
美濃市の旧市街は、1999年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。名前の由来は、隣家との間の屋根から一段高く立ち上がる防火壁「うだつ」です。豪商たちは競ってうだつに装飾を施し、そこから「うだつが上がらない」という言い回しが生まれました。目の字形に通る2本の通りに、うだつのある家並みが約20軒残ります。
見どころ(所要1時間30分〜2時間):
- 旧今井家住宅・美濃史料館:紙問屋の豪商の住まい。中庭と、水滴の音が響く水琴窟があります。300円、美濃和紙あかりアート館との2館共通券は400円
- 美濃和紙あかりアート館:毎年のコンテストで入賞した和紙のあかり作品を展示
- 和紙の店:はがき、ノート、封筒、障子紙、書道用紙など。品質により300円から1枚数千円まで
- 上有知湊(こうずちみなと):川湊の灯台が残り、長良川の舟運で紙を運んだ時代をしのばせます
毎年10月の「美濃和紙あかりアート展」では、愛好家やデザイナーが手がけた数百の和紙のあかりが夜の町並みを照らします。2026年は第33回。最も訪れがいのある時期ですが、最も混み合う時期でもあります。
美濃和紙の里会館の紙すき体験:料金、所要時間、予約
美濃和紙の里会館は市の紙の博物館で、うだつの上がる町並みから車で北へ15分ほど、今も工房が点在する板取川沿いの蕨生(わらび)にあります。美濃和紙の歴史、道具、製造工程、世界の紙を紹介しており、何より紙すき体験ができます。
- 開館時間:9:00〜17:00(入館は16:30まで)
- 休館日:火曜日(祝日の場合は翌日)、祝日の翌日(土日を除く)、12月29日〜1月3日
- 入館料:大人500円、20名以上の団体は450円
- 紙すき体験:500円から。障子紙のような美濃判のコース、シャワーで模様を描く落水紙のコース、もみじや花びらを漉き込むはがきコースなどがあります
- 所要時間:漉く作業は約20分、その後約50分乾燥。その間に館内を見学できます
- 予約:10名以上の団体は事前予約が必要
汲んで、揺らして、水を落とす。動作は単純に見えますが、最初の1枚は片側だけ厚くなりがちです。スタッフが丁寧に直してくれ、美濃特有の横揺りの難しさを実感できます。
火曜日に訪れたり、16時に着いて体験を希望したりするのは避けましょう。より踏み込んだ見学として、谷あいの工房の中には、少人数であれば申し込みにより実際の紙漉きを見学させてくれるところもあります(体験はなし)。

ちょうちん、障子、アート:現代の和紙の使われ方
和紙は博物館の中だけのものではありません。今も暮らしや現代のデザインに生きていて、お土産選びの手がかりにもなります。
- 障子・襖:住宅や旅館の建具。光をさえぎらずにやわらげます。年末に張り替えるのが伝統です。
- 岐阜提灯:美濃和紙を張った絵入りの提灯で、それ自体が伝統的工芸品。お盆の盆提灯として知られます。
- イサム・ノグチの「AKARI」:1951年から岐阜でつくられている、竹ひごと和紙の照明彫刻。ヨーロッパのデザインショップでも見かけます。
- うちわ、和傘、書道用紙、版画用紙
- 文化財修復:典具帖紙などの極薄の紙が、世界の美術館や図書館で絵画、巻物、古書の補強に使われています。
- ファッション・建築:壁紙、照明、間仕切り、紙糸の織物
美濃で買うなら、ノートやはがきのセット(500〜2,000円)、卓上の小さなあかり(5,000円前後から)、額装できる手漉き和紙(数千円から)。紙は2枚の厚紙に挟んで平らにすれば、スーツケースでも傷みません。

もう一つの大産地、越前
美濃が行程に入らない場合、最も有力な代替案が福井県の越前です。約1500年の歴史を持ち、越前市今立の紙漉きの里には、紙祖神・川上御前を祀る岡太神社・大瀧神社があります。幾重にも屋根が重なる社殿は日本でも屈指の美しさです。1976年に伝統的工芸品に指定された越前和紙は、長く公文書に用いられ、大判の紙や厚手の紙で知られています。
主な施設:
- パピルス館:紙すき体験ができる施設
- 卯立の工芸館:職人が来訪者の前で紙を漉く、紙漉き家屋
- 紙の文化博物館と、いくつもの家族経営の工房
2024年3月に開業した北陸新幹線の越前たけふ駅により、金沢(約40分)や東京からのアクセスがよくなりました。この地域のもう一つの名産、越前打刃物と組み合わせることもできます。
選び方の目安は、名古屋・岐阜・高山と組むなら美濃、金沢や日本海側と組むなら越前。どちらも体験施設は充実していますが、ユネスコ登録は美濃の本美濃紙だけです。
名古屋から美濃への行き方と団体での訪問
アクセス:名古屋からは貸切バスが最も簡単で、東海北陸自動車道の美濃ICまで約1時間です。公共交通機関なら1時間30分〜2時間。JRで岐阜まで行き岐阜バスで美濃市街へ、または美濃太田から長良川鉄道で美濃市駅へ。うだつの上がる町並みと和紙の里会館の間は、車、タクシー、バスでの移動が必要です。
所要時間:紙すき体験と町並み散策なら半日で十分。1日あれば、関(刃物、20分)や郡上八幡(清流と夏の踊り、30分)を加えられます。5月中旬〜10月中旬なら、岐阜の長良川鵜飼が団体の夜のプログラムとして最適です。
20〜40名の団体の場合のポイント:
- 和紙の里会館は数週間前に予約し、グループを分けて体験と館内見学を交互に行う
- 説明は日本語のため通訳を手配する
- 町並みは道幅が狭いので、2グループに分けてそれぞれにガイドを付ける
- ロゴ入りのノート、グリーティングカード、あかりなどの記念品は、1〜2か月前までに工房へ発注する
- あかりアート展が目的でなければ、開催週末は避ける
SHINOGI DMCでは、貸切バス、通訳、体験の予約、昼食を含めた名古屋発の日帰りプランや、名古屋・高山・金沢を巡る行程への組み込みを手配しています。

よくあるご質問
本美濃紙とは何ですか。
厳しい要件のもとで漉かれる美濃和紙です。茨城県大子町産の那須楮のみを使い、手作業でちりを取り、横揺りを加えた流し漉きで漉き、板干しで乾燥させます。2014年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。
美濃和紙の里会館の紙すき体験の料金は。
体験料は500円から、別途入館料500円(20名以上の団体は450円)。漉く作業は約20分、乾燥に約50分かかります。10名以上の団体は予約が必要です。
美濃を訪れるのに避けたい曜日は。
火曜日です。美濃和紙の里会館が休館(祝日の翌日も休館)で、うだつの上がる町並みでも平日に休む店があります。
名古屋から美濃へはどう行きますか。
貸切バスなら東海北陸自動車道経由で約1時間。公共交通機関なら1時間30分〜2時間で、JRで岐阜へ出てバス、または美濃太田から長良川鉄道で美濃市駅へ向かいます。
美濃和紙あかりアート展はいつ開催されますか。
毎年10月、うだつの上がる町並みで開かれ、夜の通りに数百の和紙のあかりが灯ります。正確な日程は美濃市観光協会が発表します。
和紙の体験は美濃と越前のどちらがよいですか。
名古屋発や高山と組み合わせる旅程、ユネスコ登録を重視するなら美濃。金沢を通る行程なら越前(福井)がおすすめで、2024年開業の北陸新幹線・越前たけふ駅から訪ねやすくなりました。
Rédaction SHINOGI DMC · 更新日
出典
- Agence pour les affaires culturelles — Hon-minoshi (Bunka Isan Online)
- UNESCO — Washi, craftsmanship of traditional Japanese hand-made paper
- Gifu Prefecture Tourism — Mino Washi no Sato Kaikan
- Gifu Prefecture Tourism — Mino Washi Akari Art Exhibition
- Gifu Prefecture Tourism — Ancienne maison Imai et musée historique de Mino
- MLIT — Base de textes multilingues : Hon-minoshi (PDF)








