日本茶の一大産地・静岡
日本人が日常のお茶、つまり職場や家庭で飲み、コンビニでペットボトルで買う煎茶を思い浮かべるとき、その代表は静岡です。東京と名古屋の間に位置する静岡県は、60年以上にわたり荒茶生産量日本一を守ってきました。2024年産では、統計開始の1959年以来初めて鹿児島県が1位となり(鹿児島40.4%、静岡38.6%)ましたが、煎茶、茶の流通、茶文化の中心が静岡であることに変わりはありません。
温暖な冬、適度な雨、大井川や安倍川の朝霧、水はけのよい斜面。掛川の丘陵から川根の険しい谷、富士山の麓まで、至るところに茶畑が広がっています。
京都の宇治が抹茶と茶道の歴史的な産地だとすれば、静岡は大規模な農業地帯で、茶が畑から工場、そして湯呑みへと届くまでを実感できる場所です。両者は重なるというより補い合う関係にあります。
地域の目安です。
- 牧之原・島田:大茶園の台地と茶の都ミュージアム。東京から約1時間30分。
- 掛川・菊川:深蒸し茶の本場。
- 川根:香り高い山のお茶の産地。大井川鐵道のSLが走ります。
- 富士・富士宮:富士山を背景にした茶畑。
- 岡部(藤枝市):玉露の産地の一つ。
牧之原台地と、ふじのくに茶の都ミュージアム
島田市、牧之原市、菊川市にまたがる牧之原台地は、日本最大級のひと続きの大茶園です。明治維新後の1869年から、静岡に移り住んだ旧幕臣や、橋の架設で職を失った大井川の川越人足たちが荒れ地を開墾しました。丸く刈り込まれた茶の畝がどこまでも続き、晴れた日には北東に富士山が見えます。
同じ地域の掛川・菊川周辺では、茶園の周りの草地(茶草場)で刈った草を茶の畝間に敷き、土を肥やし乾燥を防ぐ「茶草場農法」が受け継がれています。多様な草花や昆虫が守られるこの農法は、2013年にFAOの世界農業遺産(GIAHS)に認定されました。
最初に訪ねたいのが、台地の端、島田市にある「ふじのくに茶の都ミュージアム」です。茶の起源と世界への広がり、静岡の茶業、そして江戸初期の大名茶人・小堀遠州ゆかりの茶室と庭園の復元を見られます。
基本情報(公式サイト)
- 開館時間:9:00〜17:00(入館16:30まで)、茶室は9:30〜16:00。
- 休館日:火曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始。
- 観覧料:一般500円、有料20名以上の団体は400円。大学生以下と70歳以上は無料。
- 抹茶挽き体験:観覧料とは別に300円、約20分、各回6名まで。挽いた抹茶は持ち帰れます。
- 茶道体験:茶室で先生が点てた抹茶と季節の和菓子、700円(現金のみ)、約20分、各回16名まで。
- 館内:静岡茶や県産食材を使うカフェレストラン、県内のお茶を試飲できるショップ、3階には富士山を望む展望スペースがあります。
所要1時間30分〜2時間。車なら新東名・島田金谷ICまたは東名・相良牧之原ICから約10分、公共交通ならJR金谷駅からバスを利用します。
煎茶・玉露・抹茶・ほうじ茶:静岡のお茶とおいしい淹れ方
日本の緑茶はすべて同じ植物(チャノキ)からつくられます。違いを生むのは栽培方法、摘む時期、加工です。日本では摘んだ葉を数時間以内に蒸して酸化を止めるため、釜で炒る中国の緑茶とは異なる、鮮やかな緑色と青々とした香りになります。
静岡で出会える主なお茶です。
- 煎茶:蒸して揉み、乾燥させた日常のお茶で、静岡の代表格。70〜80℃の湯で約1分。
- 深蒸し茶:通常の2〜3倍の時間蒸した煎茶で、掛川や牧之原が本場。葉が細かく、水色は濃い緑で濁りがあり、渋みが少なくまろやかです。浸出は30〜40秒と短めに。
- 玉露:摘採前に約20日間覆いをかけて日光を遮り、甘みとうま味を高めたお茶。藤枝市岡部が名産地の一つです。50〜60℃の湯を少量、約2分。
- かぶせ茶:覆いの期間が約1週間と短く、煎茶と玉露の中間。
- 抹茶:覆い下で育てた葉を蒸して揉まずに乾燥させた碾茶を、石臼で挽いたもの。静岡でもつくられていますが、抹茶と茶道の歴史なら宇治が本家です。
- ほうじ茶:茶葉を焙じた茶色のお茶で、香ばしくカフェインが少なめ。熱湯で30秒。
- 玄米茶:煎茶や番茶に炒った玄米を合わせたもの。
時期も大切です。一番茶から生まれる新茶は4月下旬から5月にかけて店頭に並びます。その後の二番茶(夏)や秋のお茶は、ペットボトル飲料やほうじ茶に使われることが多くなります。
買う前に試飲するのがおすすめで、静岡の茶店の多くは頼めば一杯淹れてくれます。上質な一番茶の煎茶は100gで1,000〜2,000円程度、玉露や品評会クラスの新茶はさらに高価です。開封後は冷暗所で保管し、2か月以内に飲み切りましょう。

いつ訪れるか:新茶の季節と茶摘み
最適な時期は4月下旬から5月中旬です。茶畑はやわらかな新芽で覆われ、工場はその日に摘んだ葉を加工するため昼夜稼働し、村には蒸した茶の香りが漂います。象徴的なのが、立春から数えて88日目、5月2日ごろの「八十八夜」。この日に摘んだお茶を飲むと無病息災で過ごせると言われています。
茶摘みの季節でもあります。県内の茶農家や観光施設では、茶娘の衣装(かすりの着物、たすき、菅笠)を着て手摘みをし、揉んで乾かして自分だけのお茶をつくる体験ができるところもあります。いずれも期間限定で、数週間しか実施されないことが多く、事前予約が必要です。条件は施設ごとに異なります。
ほかの季節にも魅力があります。
- 6〜7月:二番茶の時期。畑はまだ青々としていて、人出は少なめ。
- 10〜12月:茶の花(黄色い芯の小さな白い花)が咲き、空気が乾いて富士山が見える日が増えます。
- 冬:雪をかぶった富士山と茶畑が最もくっきり見える季節。葉の色は濃いものの、コントラストは見事です。
人混みが苦手なら、新茶の最盛期と重なるゴールデンウィーク(4月29日〜5月5日)は避けましょう。その前後なら同じ景色をより静かに楽しめます。
最盛期の茶農家や工場は多忙を極めるため、荒茶工場の見学は数週間前に相談が必要で、少人数のみの受け入れになることが多いです。
富士山と茶畑の絶景スポット
茶畑の向こうに富士山がそびえる写真は、静岡を代表する風景になりました。ただし富士山は、特に春から夏にかけて昼前には雲に隠れやすいため、少し計画が必要です。
代表的なスポットです。
- 大淵笹場(富士市):傾斜地の茶畑と富士山の間に建物も電線もない、最も撮影される場所。残雪の富士と新芽がそろう5月が人気です。車なら東名富士ICから約15分、バス停から歩くこともできます。茶畑の中のプライベートテラス「茶の間」は90分貸切の予約制で、お茶の試飲も楽しめます。
- 牧之原台地:富士山は遠めですが、茶園のスケールは圧巻。茶の都ミュージアムの展望スペースなら歩かずに眺められます。
- 日本平(静岡市):茶畑のある丘で、駿河湾と富士山を一望。ロープウェイで久能山東照宮へ。
- 川根の谷:富士山は見えませんが、斜面にしがみつく茶畑と、川沿いを走る大井川鐵道のSLが見どころです。
撮影のポイントです。
- 11月〜5月の早朝、できれば9時前に。
- 前日にライブカメラや見通しの予報を確認しましょう。東京が晴れていても富士山麓が晴れているとは限りません。
- 茶畑の畝には絶対に入らないこと。私有の農地です。道や指定の場所から撮影し、葉に触れないようにしましょう。
- 駐車は指定の駐車場のみ。農道は農作業の車両が通ります。

静岡へのアクセス、滞在日数、モデルコース
アクセス:東京から東海道新幹線「ひかり」で静岡駅まで約1時間(各駅停車の「こだま」は新富士駅や掛川駅にも停車)。名古屋からも約1時間です。JRパスで利用できます。なお「のぞみ」は静岡駅に停車しません。
現地での移動
- 茶の都ミュージアム・牧之原:静岡駅からJR東海道線で金谷駅まで約25分、バスかタクシー。富士山静岡空港も台地のすぐ近くです。
- 大淵笹場:新富士駅(こだま)または富士駅からタクシーか車で。
- 川根:金谷駅から大井川鐵道。SLは季節ごとの運行日があり、予約が必要です。
茶の産地は点在し公共交通が不便なため、運転手付きの車や貸切バスを使うと大幅に時間を節約できます。
滞在日数の目安
- 東京から日帰り:茶の都ミュージアムと牧之原、昼食、夕方に富士山の見える茶畑。可能ですが長い1日になります。
- 1泊:早朝の大淵笹場と、茶農家での試飲を加えられます。最もおすすめです。
- 2泊:川根とSLを加える、または箱根や伊豆と組み合わせます。
1泊2日のモデルコース
- 1日目:新幹線で静岡へ。日本平と久能山東照宮、静岡泊。
- 2日目:早朝に大淵笹場、その後島田へ移動し、茶の都ミュージアム(抹茶挽き、茶室での一服)、館内レストランで昼食、牧之原台地を経て、掛川駅か静岡駅から新幹線で帰路へ。
団体で楽しむ静岡茶:試飲、体験、研修
静岡は東京から東海道線で約1時間、東京と京都の間に寄り道なしで組み込めるのが団体にとっての大きな利点です。お茶は参加型の体験がつくりやすく、海外からのチームにも好評です。
20〜40名で実施しやすい内容です。
- 茶の都ミュージアムを拠点に:有料観覧者20名以上で団体料金400円(事前予約を依頼)、大型バス最大8台の無料駐車場、日本庭園に面した200名収容(約213㎡)の多目的ホールは会議や講演に予約利用できます。抹茶挽き(各回6名)と茶道体験(各回16名)はローテーションで。
- 茶商や茶農家での飲み比べ:煎茶、深蒸し茶、玉露、ほうじ茶を並べ、目隠しで当てるゲームも。シンプルで場が和み、誰もが何かを学べます。
- 春の茶摘み:4月下旬〜5月上旬、団体の茶摘み・手揉みを受け入れる農家もありますが、枠は非常に限られ、数か月前の相談が必要です。
- 荒茶工場の見学:少人数なら可能。5月の最盛期を避けるのが無難です。
- 記念品:名入れできる茶缶、煎茶とほうじ茶のセット、小ぶりの急須など。社名入りラベルの注文は数週間の余裕を見てください。
ミュージアムは火曜休館、ゴールデンウィークの週末は大混雑します。5月の水曜・木曜、または空気の澄んだ11月がベストです。
SHINOGI DMCでは、東京・箱根・京都を結ぶプログラムや東京発の研修に、ミュージアムや体験の予約、プライベート試飲会、貸切バス、ガイド、企業ギフトまで組み込んでご案内しています。

よくあるご質問
静岡の新茶の時期はいつですか。
一番茶は4月下旬から5月中旬です。立春から88日目の八十八夜(5月2日ごろ)が象徴的な日です。
ふじのくに茶の都ミュージアムの観覧料は。
一般500円(有料20名以上の団体400円)、大学生以下と70歳以上は無料。抹茶挽き体験300円、茶道体験700円は別途。火曜休館です。
富士山と茶畑が見られる場所は。
最も有名なのは富士市の大淵笹場で、5月の早朝が特におすすめです。牧之原台地や日本平からも遠望できます。
煎茶と玉露の違いは何ですか。
煎茶は日光を浴びて育ち、さわやかでほどよい渋みがあり、70〜80℃で淹れます。玉露は摘採前に約20日間覆いをかけて育て、甘みとうま味が強く、50〜60℃で淹れます。
東京から静岡の茶畑へはどう行きますか。
新幹線「ひかり」で静岡まで約1時間、JR東海道線で金谷まで約25分で茶の都ミュージアムや牧之原へ。複数の場所を回るなら運転手付きの車がおすすめです。
企業の団体で静岡のお茶体験はできますか。
はい。茶の都ミュージアムは団体料金、200名収容のホール、ローテーションでの体験に対応し、茶商による飲み比べも手配できます。春の茶摘みは数か月前の予約が必要です。
Rédaction SHINOGI DMC · 更新日
出典
- Fujinokuni Cha no Miyako Museum — Horaires, tarifs, accès (site officiel)
- Fujinokuni Cha no Miyako Museum — Meule à matcha
- Fujinokuni Cha no Miyako Museum — Thé dans le pavillon
- Fujinokuni Cha no Miyako Museum — Groupes et salle polyvalente
- MAFF — Production de thé brut 2024 par préfecture
- Chagusaba — Système chagusaba de Shizuoka (GIAHS 2013)
- Préfecture de Shizuoka — Plan de promotion du thé









