梅の一大産地・みなべ町と田辺市
梅(Prunus mume)は英語でplumと訳されますが、植物としてはむしろ杏に近い果実です。生のままでは酸味が強く硬いうえ、青い実はそのままでは食べられません。価値は加工にあり、梅干し、梅酒、梅シロップ、ジャム、さまざまな調味料になります。おにぎりの具や朝食の一品として、梅干しは多くの日本人の日常に欠かせない存在です。
大阪の南に位置する和歌山県は、全国の収穫量の約3分の2(県の公表資料では全国96,600トンのうち64,400トン)を占めます。なかでも紀伊半島西岸のみなべ町と田辺市が中心で、周囲の山々は尾根近くまで梅畑に覆われています。
この地は「紀州梅」の名を高めた南高梅のふるさとでもあります。1950年、みなべの農家が優良母樹選定委員会を立ち上げ、5年かけて地域の梅の木を比較・調査しました。調査に深く関わった和歌山県立南部高校にちなんで「南高」と名付けられ、1965年に種苗名称登録されました。実が大きく、皮が薄く果肉が厚く、日の当たる側がほんのり紅く色づくのが特徴で、高級梅干しに最適です。
食の専門家でなくても楽しめる地域です。冬の花、6月の熟した実の香り、7月の天日干しの風景だけでも、白浜や熊野古道への道中に立ち寄る価値があります。

世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」
2015年12月15日、「みなべ・田辺の梅システム」はFAOの世界農業遺産(GIAHS)に認定されました。評価されたのは一つの梅林ではなく、約400年続く次の三つの要素からなる仕組みです。
- 斜面の梅林:この地域の土壌はやせた礫質で稲作に向きません。江戸時代、紀州藩はやせ地での梅栽培を奨励し、年貢を軽減しました。
- 山の上部や急斜面に残された薪炭林:ウバメガシなどの木が育ち、焼鳥店や鰻店で重宝される硬質の白炭「紀州備長炭」の原料になります。炭焼き職人は細い木を残して択伐し、森を維持することで水源を涵養し、崩落を防いできました。
- ニホンミツバチ:森にすみ、ほかの昆虫が少ない2月に梅の花の受粉を担います。梅の花はミツバチにとって年の初めの貴重な蜜源です。
森が梅林を守り、梅林がミツバチを養い、ミツバチが収穫を支える。一つの作物に依存しながら4世紀にわたって景観を損なわずに続いてきた仕組みは、サステナビリティや資源管理をテーマにする団体にとって格好の題材です。
現地では、尾根道から段々の梅林を眺め、炭焼き窯を見学し(田辺市には備長炭の記念公園があります)、少量しか採れない梅の花の蜂蜜を買うことができます。
梅の花を見るなら:南部梅林
梅は桜よりずっと早く、真冬に咲きます。みなべ周辺では1月下旬に咲き始め、例年2月中旬ごろが見頃です。南高梅の花は白く、ほのかな香りがあり、風のない日には谷じゅうに香りが漂います。
代表的なのが「南部梅林」で、日本最大級の梅林として「一目百万、香り十里」とうたわれます。実際に収穫を行う梅畑を、開花期に一般公開しています。
基本情報(2026年シーズン)
- 開園期間:2026年1月31日〜3月1日、8:00〜17:00。日程は開花状況により毎年変わります。
- 入園料:大人(高校生以上)500円、小人(小・中学生)200円。
- 散策:斜面に3kmと4kmの散策コースがあり、所要1時間〜1時間30分。
- アクセス:期間中はJR南部駅から臨時バスで約10分。車なら阪和自動車道みなべICから約5分。
- 催し:梅製品の販売、土曜日にはもち投げが行われる日もあります。
平日の午前中、観光バスが来る前の時間帯がおすすめです。道は土の坂道なので歩きやすい靴で。2月の尾根は冷えるので、一枚多めに羽織るものを。
国道沿いの「道の駅 みなべうめ振興館」もあわせて訪ねたい施設です。梅の歴史や栽培の展示、地元産品の販売があり、入館無料、9:00〜17:00、火曜休館(2月は無休)です。
収穫から梅干しへ:梅干しのつくり方
梅の一年はとても短く、作業を見られる時期もそれに左右されます。
- 5月下旬〜6月上旬:梅酒やシロップ用の固く酸っぱい青梅の収穫。
- 6月中旬〜7月上旬:梅干し用の完熟梅の収穫。みなべでは木の下にネットを張り、熟して自然に落ちた実を毎朝拾い集めます。梅畑は桃のような香りに包まれます。
- 7〜8月:天日干し。
昔ながらの製法は三つの工程です。
- 塩漬け:洗った梅を、昔ながらの配合では重さの18〜20%ほどの塩とともに樽に漬け、重石をします。梅酢が上がり、約1か月置きます。
- 土用干し:夏の最も暑い時期に、屋外のせいろに並べて三日三晩干し、手で返します。夜露で皮がやわらかくなり、昼の日差しで果肉が締まります。7月のみなべでは道沿いでこの光景が見られます。
- 仕上げ:こうしてできるのが、塩辛く酸っぱく、何年も保存できる白干し梅です。多くの生産者はこれを軽く塩抜きし、はちみつ梅、かつお梅、しそ漬け、減塩梅などに仕上げます。
一部の生産者やうめ振興館では、梅干しづくりや梅酒づくりの体験(約2,200円、20〜30分、梅酒は20歳以上)ができる場合があります。実施は季節によるため、予約が必要です。
購入時はラベルで塩分(3%前後から20%超まで)、種類(白干しか調味梅か)、産地(「紀州みなべ」「南高梅」)を確認しましょう。品質のよい調味南高梅は500gで2,000〜5,000円程度が目安で、大粒で傷のないものは贈答用の箱入りで販売されます。
梅酒:チョーヤと和歌山の蔵で味わう
梅酒は青梅をホワイトリカー(または焼酎、日本酒、ブランデー)と砂糖に漬け、数か月から1年以上かけて熟成させます。琥珀色で甘酸っぱく、アルコール度数は10〜15度前後。ロック、ソーダ割り、冬はお湯割りで楽しみます。今も6月に大きなガラス瓶で梅酒を漬ける家庭は少なくありません。
海外で最も知られる梅酒ブランドチョーヤは、大阪府羽曳野市に本社を置き、梅・糖類・酒だけでつくる無添加の製法を掲げ、国産梅、主に紀州の南高梅を使っています。瓶の底に梅の実が入った商品は、ヨーロッパの日本食材店でもおなじみです。2018年には京都に梅体験専門店「蝶矢」を開き、5種類の梅、数種類の砂糖、4種類のお酒を選んでオリジナルの梅酒や梅シロップを漬ける体験(キット2,160円から、約30分、要予約)を提供しています。瓶は持ち帰り、数か月後に飲み頃を迎えます。
和歌山県内でも、梅酒や日本酒の蔵が見学を受け入れています。代表的なのが、大阪からみなべへ向かう途中の海南市にある中野BCです。日本酒・梅酒の蔵の見学は無料で、約3,000坪の日本庭園、試飲、有料の梅酒漬け込み体験もあります。前日までに予約、9:00〜16:00。
味わい方のポイントです。
- 基本の梅酒、長期熟成の梅酒、日本酒ベース、はちみつや柚子入りを飲み比べると違いがはっきりわかります。
- ストレート、ロック、割りものの順に。割り方で印象が大きく変わります。
- 漬けた梅の実も食べられ、試飲の最後に出してくれることもあります。
瓶はしっかり梱包すれば預け荷物で問題なく運べます。EU入国時の酒類の持ち込み制限は日本酒と同様に適用されます。

みなべ・田辺へのアクセスと、熊野古道・白浜との組み合わせ
アクセス:JR特急「くろしお」が新大阪・天王寺と和歌山県南部を結び、南部駅まで約2時間、紀伊田辺駅まではそれより少し長く、白浜駅まで約2時間30分です。車なら大阪市内から阪和自動車道でみなべまで2時間弱(渋滞時を除く)。白浜には南紀白浜空港があり、羽田から1時間余りで結ばれています。
梅林、体験施設、生産者は山あいに点在しているため、1日に複数か所を回るなら車かマイクロバスが欠かせません。
滞在時間:みなべだけなら半日(うめ振興館、生産者1軒、梅林の展望)、体験と昼食を入れれば1日。広域の旅程にも自然に組み込めます。
- 熊野古道:紀伊田辺は中辺路の玄関口で、滝尻王子の登り口までバスで約40分。歩く前日の午前にみなべへ、あるいは帰りに梅の産地へ立ち寄る流れが無理なく組めます。
- 白浜:田辺から南へ約20分の温泉リゾート。白良浜の白い砂浜、三段壁、千畳敷、太平洋を望む公衆浴場「崎の湯」などの海辺の温泉があります。
- 海南・和歌山:大阪からの道中で梅酒の蔵に寄り、和歌山城を訪ねることもできます。
大阪発3日間の例:1日目は海南(梅酒)とみなべ、白浜泊。2日目は滝尻から熊野古道を1区間歩く。3日目は熊野本宮大社を参拝して帰路へ。

団体で楽しむ梅:生産者訪問、梅干し体験、ギフト
企業の団体にとって梅は、農業、加工、そして世界農業遺産に見るサステナビリティという具体的なテーマがあり、全員が手を動かせる体験がある点が魅力です。関西のインセンティブ、白浜滞在、熊野古道のプログラムに組み込みやすい題材です。
20〜40名で実施しやすい内容です。
- 生産・加工を行う農家の訪問:梅畑、塩漬けの樽、干し場、売店。みなべの家族経営の生産者は予約制で団体を受け入れてくれることが多く、人手が足りない6月の収穫最盛期を避けるのが礼儀です。
- 梅酒・梅干しづくり体験:一人ひとりが自分の瓶を仕込みます(梅酒は20歳以上)。飛行機で帰る団体なら、液体の入った瓶はかさばるので一括発送を手配しましょう。
- 梅酒の試飲:大阪からの道中にある蔵で、昼食と組み合わせて。
- 2月の南部梅林散策:森・梅林・ミツバチの仕組みをガイドが解説。
- 記念品:大粒南高梅の化粧箱、小瓶の梅酒、梅の花の蜂蜜、備長炭など。名入れラベルや数十箱単位の注文は数週間前に。
2月(花)と6月(収穫)が最も見応えがありますが、生産者にとっては最も忙しい時期です。土用干しの7月は良い妥協点です。梅干しは塩分が高く、かつおや蜂蜜を使うものもあるため、食事制限やアレルギーにも配慮しましょう。
SHINOGI DMCでは、梅、熊野古道、白浜を組み合わせた大阪・和歌山のプログラムで、生産者訪問の調整、体験、バスやマイクロバス、通訳、記念品の手配までご案内しています。
よくあるご質問
みなべの梅の見頃はいつですか。
1月下旬から3月上旬で、見頃は2月中旬ごろです。2026年の南部梅林は1月31日〜3月1日、8:00〜17:00、大人500円でした。
南高梅とは何ですか。
みなべで1950年から選抜され、1965年に南部高校にちなんで名付けられ登録された梅の品種です。大粒で皮が薄く果肉が厚く、最高級の梅干しになります。
みなべ・田辺が世界農業遺産に認定された理由は。
約400年にわたり、斜面を守る薪炭林(備長炭の原料となるウバメガシ)と、花を受粉させるニホンミツバチと共生しながら梅を育ててきたためです。2015年12月15日に認定されました。
梅干しや梅酒づくりの体験はできますか。
はい。みなべでは約2,200円、20〜30分の体験(梅酒は20歳以上)を予約制で行う生産者があります。京都のチョーヤ「蝶矢」では2,160円から梅酒づくりができます。
大阪からみなべへはどう行きますか。
新大阪または天王寺からJR特急「くろしお」で南部駅まで約2時間、車なら阪和自動車道で2時間弱です。現地では車が必要です。
みなべと熊野古道、白浜は組み合わせられますか。
はい。みなべに隣接する紀伊田辺は熊野古道中辺路の玄関口(滝尻王子までバスで約40分)で、白浜は田辺から南へ約20分です。
Rédaction SHINOGI DMC · 更新日
出典
- Préfecture de Wakayama — Minabe-Tanabe Ume System (GIAHS)
- Préfecture de Wakayama — Plan d'action du système ume
- MAFF — Le patrimoine agricole mondial au Japon (ume de Minabe-Tanabe)
- Préfecture de Wakayama — Michi-no-eki Minabe Ume Shinkokan
- Tabi-mag — Minabe Bairin (saison 2026, tarifs)
- Préfecture de Wakayama — Nakano BC (visite et umeshu)
- Choya — Boutique-atelier 蝶矢 à Kyoto









