有田と伊万里:日本最初の磁器はどこから生まれたか
始まりは1616年、佐賀県の小さな町・有田です。豊臣秀吉の朝鮮出兵後に日本へ渡った朝鮮人陶工・李参平が泉山で白磁の原料となる陶石を発見し、日本で初めて磁器が焼かれました。2016年には有田焼創業400年を迎えています。
「伊万里」とも呼ばれるのは、有田の焼き物が約15km離れた伊万里の港から積み出されたためです。17世紀半ば、戦乱で中国からの輸出が途絶えると、オランダ東インド会社が日本の磁器を大量にヨーロッパへ運びました。ヨーロッパでは積出港の名から「IMARI」と呼ばれ、その名が定着します。宮廷での人気は高く、18世紀初めにはドイツ・ザクセンのマイセン窯が柿右衛門様式を写しています。
現在、有田・伊万里の磁器は「伊万里・有田焼」として1977年に経済産業大臣指定の伝統的工芸品となっています。現地は大きく分けて次のとおりです。
- 有田:窯元の町。柿右衛門、今右衛門、深川製磁、香蘭社などの名門と県立の陶磁美術館があります。
- 大川内山(伊万里市):鍋島藩の御用窯が置かれた「秘窯の里」。
- 有田駅へは博多から特急で約1時間20分。福岡からの日帰りが可能です。

柿右衛門・色鍋島・古伊万里:有田焼の様式を見分ける
収集家でなくても、三つの様式を知っておくと展示の見え方が大きく変わります。
- 古伊万里:国内向け・輸出向けの初期の製品。最初は染付(藍色の下絵付け)、のちに赤・緑・金を多用した金襴手が生まれ、ヨーロッパで珍重されました。大皿や蓋付きの壺など、器面いっぱいに文様が広がるのが特徴です。
- 柿右衛門様式:「濁手(にごしで)」と呼ばれる乳白色の素地に余白を大きく残し、赤・緑・青・黄の上絵で鶉と粟、梅、虎と竹などを左右非対称に配します。酒井田柿右衛門家が17世紀から継承し、濁手の技法は重要無形文化財に指定されています。
- 色鍋島:大川内山の鍋島藩窯で、将軍家や大名への献上品として作られ、江戸時代には一般に売られませんでした。高台の高い木盃形の皿、藍の輪郭線に色絵を施した端正な図柄、高台の櫛目文様が特徴で、ほとんど図案的な完成度です。
製法の基本は今も同じです。陶石を砕いて練り、ろくろや型で成形し、乾燥後に約900℃で素焼き、呉須(コバルト)で下絵付けをして釉薬を掛け、約1,300℃で本焼き。色絵の場合はさらに上絵付けをして低温で焼き付けます。名門の窯では絵付けも分業が多く、輪郭線を描く「線描き」と、筆にたっぷり絵具を含ませて塗る「濃(だみ)」を別の職人が担います。

有田の見どころ:美術館、窯元、トンバイ塀の路地
有田の町は、西の有田駅から東の上有田駅まで谷沿いに4〜5km続きます。歴史的な中心地である内山地区は上有田側です。
- 佐賀県立九州陶磁文化館:有田駅から徒歩約10分。柴田夫妻コレクションなどの常設展は無料、特別企画展は有料です。9:00〜17:00(入館16:30まで)、月曜休館(祝日の場合は翌日)、12月29日〜1月3日休館。2026年12月6日まで、特別企画展「柿右衛門とマイセン」で有田の磁器とザクセンの写しを見比べることができます。
- 柿右衛門窯・今右衛門窯:いずれも展示販売室があり、柿右衛門窯では古作品の参考館も見学できます。作品には触れず、室内は撮影禁止の場合が多いので注意します。
- トンバイ塀:内山地区の路地に残る、登り窯の廃材の耐火レンガや陶片で築いた塀。町で最も絵になる風景です。
- 陶山神社:鳥居や狛犬、灯籠、欄干まで磁器製。上には李参平の記念碑があり、谷を見渡せます。
- 泉山磁石場:陶石が発見された削られた山肌を展望所から見られます。
歩くなら上有田駅で降り、有田駅方面へ西に向かうのが効率的です。美術館や離れた窯元へはタクシーを使い、主要な見どころを無理なく回るには丸1日を見ておきましょう。
伊万里・大川内山:鍋島藩窯の秘窯の里
JR伊万里駅からバスで約20分、岩山に囲まれた谷の奥にあるのが大川内山です。ここには鍋島藩の御用窯が置かれました。険しい地形と谷の入口の関所によって技術と職人を外部から守り、職人の出入りも厳しく管理されたことから「秘窯の里」と呼ばれます。
現在も約30の窯元が、染付、色鍋島、青磁などを制作しています。徒歩で1時間半〜2時間ほどで回れます。
- 窯元の工房兼店舗とレンガ煙突が並ぶ坂道のメインストリート
- 村の入口にある、陶板で飾られた橋
- 陶片を積み上げた塚と墓石が並ぶ「陶工無縁塚」
- 復元された登り窯と、窯元の屋根を見下ろす展望所
- 春と秋の窯元市、夏には路地につるされる磁器の風鈴
店頭価格は有田の名門窯より手頃なことが多く、ぐい呑みや箸置きは数千円から、手描きの皿はおよそ5,000〜20,000円が目安です。
アクセス:有田駅から松浦鉄道で伊万里駅まで約25分、西肥バス大川内山行きで終点まで約20分。有田から貸切バスなら約30分です。
有田陶器市:ゴールデンウィークの大陶器市
毎年4月29日〜5月5日、有田の町は巨大な陶器市になります。2026年で第122回を迎え、2025年の来場者は約114万人。有田駅から上有田駅までの約4kmの通りに、名門窯から小さな窯元、B品の蔵出し、手頃な日常食器まで数百の店が並びます。
出かける前の注意点:
- 混雑は本格的:博多からの列車は満員(JRが臨時列車を運行)、臨時駐車場は朝のうちに満車、昼頃の通りは人であふれます。9時前か15時以降が狙い目です。
- 宿は数か月前から埋まります:有田、武雄温泉、嬉野温泉は早めの予約が必須。福岡に泊まって列車で往復する方が楽なこともあります。
- 現金を用意:カード対応は増えていますが、使えない店も多くあります。
- 梱包と配送:丁寧に包んでくれますが磁器は重いもの。国内配送に対応する店は多いものの、海外発送は店ごとに確認するか、ホテルから発送します。
ゴールデンウィーク以外なら、比較的落ち着いた秋の陶磁器まつり(例年11月)や大川内山の窯元市で、混雑を避けて買い物を楽しめます。
絵付け体験と買い物:料金とポイント
最も手軽な体験は絵付けです。素焼きの皿や湯のみ、茶碗に呉須で絵を描き、施釉と焼成は工房が行います。有田・伊万里の複数の施設で体験でき、料金は小皿で約900円・30分程度から、マグカップや風鈴で2,000〜3,000円程度が目安です。
- 作品は当日持ち帰れません。焼成と冷却に時間がかかり、届くのは1〜2か月後です。国内発送は簡単ですが、海外発送は対応していない場合や、作品より送料が高い場合もあります。海外からの旅行者は日本在住の知人宛てにするか、海外発送に対応した工房を選びましょう。
- 呉須は焼く前は灰黒色に見えるため、仕上がりを想像しながら描くことになりますが、それで問題ありません。
- 描き込みすぎるより、簡潔な線の方がきれいに仕上がります。青海波、唐草、牡丹などの伝統文様の見本を用意している工房も多くあります。
買い物の価格の目安:
- 湯のみや小鉢(窯元の普段使いの器):約1,500〜5,000円
- 名の知れた窯元の手描きの皿:10,000〜50,000円以上
- 柿右衛門・今右衛門の作品:美術品の価格帯で、小品でも数万円から
陶器市やアウトレットで扱うB品は、焼きや色にわずかな難がある分30〜50%安く、日常使いの器にぴったりです。

福岡からのアクセスと滞在日数
鉄道:博多から特急みどり(佐世保行き)で有田まで約1時間20分。JRパスや北部九州パスの対象です。西九州新幹線の武雄温泉駅から有田までは在来線で約15分なので、長崎方面からも便利です。伊万里へは有田から松浦鉄道で約25分(JRパスの対象外)。
車・貸切バス:福岡から長崎自動車道経由、波佐見有田ICまで約1時間15分。有田、大川内山、温泉を組み合わせるなら最も柔軟です。
おすすめの日数:
- 福岡から日帰り:有田のみ(陶磁文化館、内山地区、窯元1軒、絵付け体験)。
- 1泊2日:1日目に有田、武雄温泉か嬉野温泉(美肌の湯と嬉野茶で知られる)に泊まり、2日目の午前に大川内山と伊万里。
- 2泊3日:唐津(唐津焼、海辺の城)や、長崎県側の日用磁器の町・波佐見を追加。
陶磁文化館が休館の月曜日に合わせて来てしまうことや、窯元の休みが多い年末年始の訪問は避けましょう。
団体での有田:20〜40名向けの見学と体験
有田は福岡を拠点にした研修旅行やインセンティブにぴったりです。歴史、職人技、自分で作る体験という流れがわかりやすく、参加者全員が自分で絵付けした器を持ち帰れます。
手配のポイント:
- 九州陶磁文化館は団体利用に対応しており、団体向けの案内ページもあります。館内の解説は主に日本語のため、通訳ガイドを手配しましょう。
- 20〜40名の絵付け体験:大人数に対応できる工房もあり、多くは広い会場で職人の実演付きです。1〜2か月前に予約し、焼き上がった作品は会社や国内の参加者宛てに一括発送するよう手配します。
- 窯元の特別見学:依頼に応じて、家族や職人が工房やコレクションを案内してくれる窯元もあります。一日のハイライトになるので、早めに依頼します。
- 移動:福岡から貸切バスで約1時間15分。大川内山ではバスは村の下の駐車場に停め、坂道を歩いて見学します。
- 時期:陶器市が目的でなければゴールデンウィーク(混雑、満室)は避けるのが無難。2026年12月6日まで「柿右衛門とマイセン」展が開かれる秋は好機です。
- 記念品:同じ窯元のぐい呑みや豆皿のセットに、名入れや様式の解説を添えると、持ち運びやすく上品な企業ギフトになります。
SHINOGI DMCでは、福岡発で窯元や工房の予約、通訳、移動、武雄・嬉野の旅館泊までを手配しています。
よくあるご質問
有田焼と伊万里焼の違いは。
歴史的には同じ磁器で、有田で焼かれ伊万里港から出荷されたため、ヨーロッパでは「IMARI」と呼ばれました。現在は有田町の製品を有田焼、大川内山など伊万里市の製品を伊万里焼と呼び分けています。
有田陶器市はいつ開かれますか。
毎年4月29日〜5月5日のゴールデンウィーク期間です。2026年は第122回で、2025年の来場者は約114万人でした。
福岡から有田への行き方は。
博多から特急みどりで約1時間20分(JRパス利用可)。車や貸切バスなら長崎自動車道経由で約1時間15分です。
九州陶磁文化館は無料ですか。
常設展は無料で、特別企画展は有料です。9:00〜17:00、月曜と12月29日〜1月3日は休館です。
絵付けした作品は持ち帰れますか。
当日は持ち帰れません。施釉と焼成の後、1〜2か月ほどで発送されます。海外発送は対応していない場合があるので予約時に確認してください。
大川内山とはどんな場所ですか。
将軍家への献上品・色鍋島を焼いた鍋島藩窯が置かれた伊万里市の集落で、現在も約30の窯元があります。伊万里駅からバスで約20分です。
Rédaction SHINOGI DMC · 更新日
出典
- Saga Prefectural Kyushu Ceramic Museum — Site officiel (horaires, tarifs, expositions)
- Toretabi (JR) — 122e Arita Ceramic Fair, 29 avril-5 mai 2026
- Préfecture de Saga — Document touristique sur Okawachiyama (Imari)
- METI Kyushu — Artisanats traditionnels de Kyushu (Imari-Arita-yaki, désignation 1977)
- Rurubu — Imari-Arita-yaki Traditional Industry Hall (atelier de peinture)








